
歯のすり減りや詰め物の破損を防ぐための基本方針
歯ぎしりや食いしばりで歯が削れるときは、日中、無意識に上下の歯を触れさせている癖に気づく工夫と、就寝中に使うナイトガードで歯を保護する対策を分けて進めることが基本です。無意識の力を意思だけで止めるのは難しいため、環境づくりや器具の力を借りることが負担の軽減につながります。この記事では、歯が削れる仕組みや他の原因との見分け方、ナイトガードの役割と限界、歯科医院で相談したい要点を整理してお伝えいたします。
この記事の要点まとめ
- 歯ぎしりや食いしばりは歯のすり減りや詰め物の破損につながることがあり、ほかの要因も診察で確認します。
- 日中は歯を離す工夫をし、睡眠中はナイトガードで歯への負担を和らげる方法があります。
- ナイトガードは歯ぎしり自体を止める装置ではありません。歯や装置の状態を歯科医院で確認し、調整を相談します。
歯ぎしりや食いしばりで歯が削れるのはなぜ?ほかの原因との見分け方は?

本来は離れているはずの上下の歯が、強い力で長時間触れ続けることで擦れや圧力が積み重なり、歯の削れや欠けが起こります。歯ぎしり・食いしばりは、睡眠中だけでなく起きている間にも起こることがあります。酸蝕症や歯磨きの力など別の要因と見分けることが、対策の第一歩となります。
安静時は離れているはずの歯が、強く長く当たり続ける仕組み
リラックスしているとき、上下の歯の間にはわずかなすき間(安静空隙)があり、食事や会話で歯が触れ合う時間は1日の中でもわずかです。しかし、歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)があると、この接触時間が大幅に長くなります。
ブラキシズムには、あごを動かしながら歯をこすり合わせる「グラインディング」(いわゆる歯ぎしり)と、歯をカチカチと打ち鳴らす「タッピング」があります1 。さらに、あごを動かさずにぐっと噛みしめる「クレンチング」(食いしばり)もあります 2。
歯ぎしりや食いしばりの際は、普段の食事で噛むときよりも強い力が歯や顎にかかることがあります。また、睡眠中と起きている間のブラキシズムは別の状態として捉えられています 3。
削れ方で見当をつける:歯ぎしり・酸蝕症・歯磨きのしすぎ・加齢の違い
歯がすり減る原因は一つではなく、削れ方の特徴からある程度の見当をつけることができます。
| 考えられる原因 | 歯の削れ方や見た目の特徴 |
|---|---|
| 歯ぎしり・食いしばり | 前歯の先端が平らになる、上下の歯を動かすと削れた面がぴったり合わさる |
| 酸蝕症(さんしょくしょう) | 酸性の飲食物や胃酸の影響で、歯の表面全体が溶けたように丸みを帯びて薄くなる |
| 歯磨きのしすぎ | 歯と歯ぐきの境目がくさび状にえぐれる。強いブラッシングに、噛みしめの力が重なってできることもある |
| 加齢による変化 | 長年の食事などにより、全体的に少しずつ緩やかにすり減る |
実際には複数の要因が重なっているケースも少なくありません。見た目だけで自己判断するのは難しいため、歯科医院で状態を確認していただくことが望ましいといえます。
詰め物の縁の欠けや朝の顎のだるさなど、すり減り以外に表れるサイン
歯のすり減り以外にも、強い力がかかっているサインはお口の中や周囲の筋肉に表れます。たとえば、数年前に治療した詰め物の縁が欠ける、被せ物が外れる、むし歯がないのに冷たいものがしみる(知覚過敏)といった変化が代表的です。
また、朝起きたときの顎のだるさや、頬の筋肉(咬筋)・こめかみ付近(側頭筋)の張りも気づくきっかけになります。そこからつながる頭痛や肩こり、ご家族からの歯ぎしり音の指摘、頬の内側や舌の縁についた歯型なども手がかりです。目に見えない小さなひびが進行すると、歯ぐきから見えている部分(歯冠)が割れる歯冠破折や、根っこまで割れる歯根破折につながる場合もあるため注意が必要です。
日中の食いしばりと睡眠中の歯ぎしり、対策は同じでよいのか?
起きている間の食いしばりは「気づいて歯を離す習慣づけ」を行い、睡眠中の歯ぎしりは意識で止められないため「歯を守る装置(ナイトガード)」を中心に備えます。日中と夜間では起こる仕組みが異なるため、単独の方法に頼らず複数の工夫を組み合わせていくことが検討されています [4, 3]。
画面作業中の噛みしめに気づくための目印と、1日の記録の付け方
パソコンでの画面作業や細かい手作業に集中しているときは、無意識に上下の歯を合わせ続けていることがよくあります。日中の対策では、まずご自身の噛みしめに気づくきっかけを作ることが中心になります。
- 目印を貼る:モニターの端やデスク周りに「歯を離す」「肩の力を抜く」と書いた小さな付箋を貼る
- 行動と結びつける:メールを送信するたび、または席を立つたびに顎の力を抜くルールを作る
- 記録をつける:歯が触れていると気づいた時間帯や作業内容をスマホなどにメモし、受診時に歯科医師へ伝える
目印を見たら「唇は閉じて、上下の歯は少し離す」という安静時の位置に戻します。作業の合間に、口をゆっくり大きく開けて5秒保ち、その後だらんと力を抜くといった軽いストレッチを取り入れるのも筋肉の緊張を和らげる工夫の一つです。
睡眠中は意識で止められないからこそ、歯を守る装置で備えるという考え方
睡眠中の歯ぎしりは無意識の現象であり、気合いや努力だけで止めることは困難です。ご家族に睡眠中のギリギリという音を指摘されると申し訳なく感じる方もいらっしゃいますが、ご自身を責めすぎる必要はありません。
夜間の対策では、歯ぎしりそのものを無理に止めようとするのではなく、「力がかかっても歯や詰め物が壊れないように装置で負担を和らげる」という考え方が軸になります。ブラキシズムへの対応では、マウスピースなどの咬合装置に加え、日中の行動面の工夫や筋肉のケアなどを組み合わせて進めることが報告されています 4。
いびき・睡眠中の呼吸の止まり・服用中の薬が気になるときの相談先
睡眠中の歯ぎしりの背景には、お口の中の問題だけでなく、全身の状態や睡眠環境が関わっていることがあります 3。強いストレスや睡眠の質の低下が影響していることも考えられます。
特に、ご家族から「大きないびき」や「睡眠中に呼吸が止まっているようだ」と指摘される場合は、睡眠時無呼吸などの問題が隠れている可能性があります。また、服用中のお薬が影響するケースもあるため、これらに心当たりがあるときは歯科だけでなく、呼吸器内科や睡眠外来、あるいはお薬を処方しているかかりつけ医への相談もあわせてご検討ください 3。
ナイトガードは歯ぎしりを止めるのか?役割と限界は?
ナイトガードは歯ぎしりという動き自体をなくす装置ではなく、上下の歯にかかる力を装置側で受け止めて、歯の削れや詰め物の破損を抑えるための装置です。期待できる役割と限界をあらかじめ理解しておくことで、装着後の戸惑いを減らし、無理なく使い続けることにつながります。
よくある誤解:ナイトガードを入れれば歯ぎしりが治るわけではない
ナイトガード(睡眠時用のマウスピース)は、就寝中に上の歯または下の歯に装着し、上下の歯が直接ぶつかるのを防ぐ保護具です。プラスチックや樹脂でできた装置が身代わりとなって擦り減ることで、ご自身の歯や治療した詰め物・被せ物へのダメージを和らげます。
睡眠中の歯ぎしりがある方では、硬い装置でも軟らかい装置でも、噛む筋肉の活動や噛む力そのものは大きくは変わらないとされています 5。一方で、臨床的な症状の緩和には複数の要因が関わっており個人差があります [4, 5]。したがって、「装置を入れれば歯ぎしりが消える」と捉えるのではなく、「歯ぎしりが続いても大切な歯を傷めないために守る道具」として活用していくことが現実的です。
ポイント
ナイトガードは歯ぎしりの動きを止めるものではなく、身代わりとなって削れることで、ご自身の歯や詰め物を守る装置です。
寝つきにくい・きつい・外れるときの調整と、慣れるまでの過ごし方
初めてナイトガードをお口に入れると、異物感があったり、唾液が多く出たり、歯が締め付けられるように感じたりして寝つきにくく思うことがあります。最初は就寝の30分〜1時間ほど前から装着して感覚に慣らし、どうしても眠れない夜は無理せず外すなど、少しずつ装着時間を延ばしていく方法がとられます。
ただし、特定の歯だけが強く痛む、朝起きたときに噛み合わせがずれた感覚が長く残る、あるいは緩くてすぐ外れてしまうといった場合は、調整が必要です。ご自身で削ったり曲げたりすると噛み合わせのバランスを崩す恐れがあるため、作ったまま使わなくなる前に歯科医院へ持参し、噛み合わせの微調整を受けてください。
毎朝の洗い方と保管方法、作り直しを考えたい摩耗や破損のサイン
毎日お口に入れるナイトガードを清潔に保つには、シンプルで続けやすい手入れを習慣にすることがポイントです。
- 毎朝の洗い方:外したらすぐに水で洗い流し、指の腹や毛先のやわらかい歯ブラシでやさしく汚れを落とす(研磨剤入りの歯みがき粉は細かい傷がつくため使わない)
- 熱いお湯は使わない:お湯をかけると樹脂が変形して歯に合わなくなるため、水かぬるま湯を使う
- しまい方:水けを軽くふき取り、風が通る専用ケースに入れて、風通しのよい場所で乾かす
においや汚れが気になるときは、マウスピース専用の洗浄剤を併用します。使い続けるうちに装置に穴があいたり、ひび割れや変形が見られたりした場合は、歯ぎしりの力をしっかり受け止めている証拠でもあります。放置すると歯を守る働きが落ちるため、定期検診の際などに装置を持参し、作り直しの時期を相談されることをお勧めいたします。
削れた歯は治せる?歯科医院では何を確認し、どう相談すればよい?
一度削れた歯の組織は自然には元に戻りませんが、これ以上の進行を抑える対策と、必要に応じた詰め物・被せ物での形の回復を組み合わせて守っていくことができます。ご家族に受けさせたいと思えるような、必要以上に歯を削らない方針のもとで、お口全体のバランスを見ながら治療計画を立てていくことが大切です。
すり減りの進行を抑える装置と、形や噛み合わせを回復する修復の組み合わせ方
歯の表面を覆うエナメル質は、一度すり減ったり欠けたりすると自然に再生することはありません。そのため、削れ方が軽度で痛みなどの症状がない場合は、余分に歯を削る処置は行わず、ナイトガードの装着や日中の習慣の見直しで進行を抑えながら経過を観察します。
一方で、詰め物が欠けて段差ができている場合や、内部の象牙質が露出して強くしみる場合、奥歯の高さが失われて噛み合わせに影響が出ている場合は、樹脂(コンポジットレジン)や詰め物・被せ物で形を補います。ただし、欠けた箇所を直すだけでは同じ力がかかって再び破損しやすいため、修復処置とあわせて力を分散させる対策を一緒に進めていくことが長持ちの鍵となります。
欠け・強いしみ・揺れ・噛むと痛いときは早めに:診察で確かめること
次のような症状がある場合は、歯の内部や根っこ、支える骨に負担が及んでいる可能性があるため、受診を先延ばしにせず歯科医院でご相談ください。
- 歯や詰め物の縁が欠けて舌に引っかかる
- 冷たいものや熱いものが強くしみる
- 歯が以前より揺れている感じがする
- 食事で噛んだときにズキッとした痛みや違和感がある
診察では、歯のすり減り具合や細かい亀裂の有無、過去の修復物の適合状態、噛み合わせのバランス、顎関節や筋肉の張りなどを順番に確認いたします。目視だけでは分かりにくい小さなひびや顎の骨の状態を確かめるために、レントゲン検査や歯科用CT、視野を拡大するマイクロスコープなどの機器を用いて細部まで調べることもあります。
型取りで吐き気が出やすい方が受診前に尋ねたい作製方法・費用・通院回数
粘土のような材料をお口に入れる従来の歯型取りで吐き気(嘔吐反射)が出た経験があると、ナイトガードの作製に不安を感じるものです。近年は、小型カメラでお口の中を撮影する光学印象(口腔内スキャナー)を取り入れる歯科医院もあります。
ただし、保険で作るナイトガードにスキャナーを使えるかどうかや、選べる作り方は、医院の体制や制度のきまりによって違います。受診時に「型取りで吐き気が出やすい」と伝えたうえで、負担の少ない方法を尋ねてみてください。
費用については、歯ぎしりや食いしばりから歯を守るために作るナイトガードは、健康保険が使えることが多いです。でき上がるまでの通院は「検査・型取り」と「お渡し・調整」の2回ほどが目安です。当院の費用は診察のうえでご案内いたします。
なお、マウスピース矯正は透明な装置を順番に取りかえて歯並びを整える自由診療で、歯ぎしりそのものを治す治療ではありません。治療期間は、装置をつける期間がふつう2〜3年ほどで、軽い治療なら半年ほどで済むこともあります 6。
装置をつける時間を守らないと、計画どおりに歯が動かないことがあります。また、歯の根が短くなる(歯根吸収)、歯ぐきが下がる(歯肉退縮)といったリスクもあります。
ボツリヌス注射は、噛む筋肉(咬筋)に薬を注射する自由診療です。国内では、歯ぎしり・食いしばりへの使い方は承認されておらず、医療機関の判断で行われる使い方になります。
実際の費用や再診時の調整料、作り直しができるまでの期間などは医療機関によって違うため、受診先の歯科医院へおたずねください。
ポイント
型取りへの不安や、保険適用の範囲・調整の進め方など、気になる点は治療前の説明で遠慮なく確認し、納得したうえで対策を始めましょう。
よくある質問
Q. 市販のマウスピースと歯科医院で作るナイトガードは何が違いますか?
ご自身の歯並びや噛み合わせに合わせて細かく調整されているかどうかが大きな違いです。
市販品はご自身でお湯などで温めて形を合わせるものが多く、厚みが不均一になったり、噛み合わせが合わずに顎の関節や特定の歯へかえって負担をかけたりすることがあります。歯科医院ではお一人おひとりの歯型をもとに作製し、上下の歯がバランスよく当たるように調整を行います。
Q. すでに神経を抜いている歯やインプラントがある場合もナイトガードは必要ですか?
天然の歯以上に強い力の影響を受けやすいため、装着が勧められるケースが多くあります。
神経を抜いた歯や治療した歯も、強い力がくり返しかかると、詰め物・被せ物の欠けや歯の割れにつながることがあります。また、インプラントには、天然の歯の根のまわりにあるクッション(歯根膜)や、噛む力を感じとって加減するセンサーがありません 7。治療した歯を長く守るためにも、就寝時の保護が役立ちます。
Q. ナイトガードは上の歯と下の歯のどちらにつけるのですか?
一般的には上の歯に装着することが多いですが、お口の状態によって判断されます。
上の歯に装着する方が舌のスペースを邪魔しにくく、安定しやすい傾向があります。ただし、上の前歯の並び方や吐き気の出やすさ、被せ物の位置などによっては下の歯に作製することもありますので、診察時に歯科医師と相談して決めていきます。
参考文献
1. https://www.tmd.ac.jp/dent/tmj/TMJtowa-kouzou.htm
2. 歯ぎしり – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020. https://www.jda.or.jp/park/trouble/bruxism.html
3. Manfredini D, Ahlberg J, Lobbezoo F. Bruxism definition: Past, present, and future – What should a prosthodontist know? The Journal of prosthetic dentistry (2022). PMID: 33678438 / DOI: 10.1016/j.prosdent.2021.01.026
4. Assiri HA, Almuawi LF, Asiri BA et al. Bruxism treatment outcomes: A systematic review and meta-analysis. Medicine (2025). PMID: 41366915 / DOI: 10.1097/MD.0000000000046247
5. Ferreira GF, Carletti TM, Gama LT et al. Influence of occlusal appliances on the masticatory muscle function in individuals with sleep bruxism: A systematic review and meta-analysis. European journal of oral sciences (2024). PMID: 38421263 / DOI: 10.1111/eos.12979
6. 矯正歯科治療について | 公益社団法人 日本矯正歯科学会. https://www.jos.gr.jp/about
7. インプラント – 歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020. https://www.jda.or.jp/park/lose/index19.html
2015年 大阪歯科大学附属病院にて臨床研修終了
2016年 大阪歯科大学大学院 歯学研究科入学
2020年 大阪歯科大学大学院 歯学研究科卒業
歯科保存学専攻学位取得
2020年 大阪歯科大学附属病院にて勤務
2021年 大阪府一般歯科勤務 大阪府地域医療に尽力
2023年 京橋オレンジ歯科クリニック 院長就任
日本口腔インプラント学会
日本歯周病学会
日本矯正歯科学会
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