「妊娠中、つらくて、きちんと歯磨きができない…」
「妊娠中、歯ぐきに腫れ物ができてしまった…」
赤ちゃんを身ごもる妊娠中はお母さんにさまざまな体調の変化が現れることがあり、つらい場面も多いかと思います。
妊娠中は、女性ホルモンの影響によってお口の中(特に歯ぐき)の健康が乱れやすくなります。妊娠中、つわりなどにより気分が悪く、十分に歯磨きをできないケースも少なくありません。
妊娠中の妊娠期間(妊娠〇ヶ月目など)によっては赤ちゃん・お母さんへの影響を考え、麻酔やレントゲン撮影をはじめとする通常の歯科治療を行えない場合も。
妊娠中は通常の歯科治療を行えない期間もあるため、歯が痛いなどの症状がなくても、歯科医院で定期検診を受けることが大切です。歯科医院で定期的に検診を受けることでご自身では落とし切れない歯垢や歯石を除去でき、むし歯・歯周病予防につながります。
歯科医院でのプロケアに加え、妊娠中はできる範囲でセルフケアを行うことでお口の状態の悪化を防ぎやすくなります。
今回は「妊娠中に読みたい!歯のケア」についてのお話です。
目次
■女性ホルモンの影響により、妊娠中は歯周病にかかりやすくなります
◎女性ホルモンが増加し、歯周病菌などの細菌が活発化
妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが増加するため、歯周病にかかりやすくなります。
女性ホルモンの増加によって発症・進行する歯周病を「妊娠性歯周病」と呼びます。
エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが増加するとホルモンの影響で血流も増えます。血流の増加によって歯ぐきに流れる血液が増え、新陳代謝が活発になります。
新陳代謝が活発になることで口腔内にひそむ歯周病菌などの細菌も活発化してしまうため、妊娠中は歯周病にかかりやすくなります。
{女性は8~18歳頃までの思春期にも歯周病にかかりやすくなります}
妊娠中のほか、女性は8~18歳頃までの思春期にも女性ホルモンが増加し、歯周病にかかりやすくなります。「中学生のとき、やけに歯ぐきが腫れていた」など、思春期に歯ぐきの不調を感じていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
◎妊娠中、お口の中に腫れ物ができることも
妊娠性歯周病に加え、妊娠中は女性ホルモンの増加の影響によってお口の中に良性の腫れ物(良性の腫瘍)ができることがあります。妊娠中にできる良性の腫瘍を「妊娠性エプーリス」と呼びます。
妊娠性エプーリスは、小さな物では大豆ほどの大きさから、ケースによっては永久歯数本を覆う程まで大きくなってしまうことも。
通常、妊娠性エプーリスは出産後、女性ホルモンの分泌が減るにつれて少しずつ小さくなり自然治癒するため、特別な処置・治療をしなければならないケースは多くありません。
多くはありませんが、小さくならない場合は、出産後に局所麻酔による妊娠性エプーリスの切除手術が必要になることがあります。
■妊娠中の歯のケア
◎妊娠中はできる範囲で歯をケアしましょう
赤ちゃんを身ごもる妊娠中は妊娠性歯周病や妊娠性エプーリスが起きることもあり、お口の中の環境が乱れやすくなります。
また、妊娠中は赤ちゃんの脳や身体が作られる妊娠初期(妊娠1~4ヶ月目)、および、出産が近づく妊娠後期(妊娠8~10ヶ月目)には麻酔やレントゲン撮影をはじめとする歯科治療を行えません。
妊娠初期、妊娠後期の妊婦の方に対しては、極端に歯や歯周組織が痛む場合を除き、原則として応急処置のみでの対処になります。
むし歯(特に親知らずのむし歯)で歯が痛んでも、妊娠初期や妊娠後期は赤ちゃん・お母さんへの影響を考え、応急処置しか行えません。
妊娠中に歯や歯ぐきのことで痛い思い・つらい思いをしないためにも、妊娠中は以下のポイントを参考にして、できる範囲で歯をケアしましょう。
妊娠中のケアのポイント①つわりでつらいときはお口をゆすぐだけでもOK
妊娠中、つわりでつらいときは歯みがきをしなくてもかまいません。ただし、お口の中だけは水かぬるま湯でゆすいでください。
飲食後にお口をゆすぎ、つわりのつらさが少しマシになったときに歯磨きをすればOKです。
妊娠中のケアのポイント②ヘッドが小さな歯ブラシを使いましょう
つわりや気分の落ち込みなど、妊娠中はつらい状態になることがあります。妊娠中でつらいときに大きなヘッドの歯ブラシを使って歯磨きをすると、オエッとなってしまう場合も。
妊娠中、また、妊娠中以外にも、歯みがきではヘッドが小さな歯ブラシがおすすめです。
ヘッドが小さな歯ブラシは小回りが利き、お口の中をすみずみまで磨きやすいです。ヘッドが小さな歯ブラシを使うことで嘔吐反射もでにくくなります。
妊娠中のケアのポイント③酸っぱい物・甘い物を飲食した後はお口をゆすぎましょう
妊娠中に味覚が変わり、酸っぱい物・甘い物をやけに食べたくなる方は多いです。
妊娠中、酸っぱい物・甘い物は飲食してもかまいません。ただし、飲食後はお口をゆすいでください。お口をゆすぎ、可能であれば、飲食をしてから30分以上経ったときに歯みがきをするのがベターです。
甘い物が欲しいときは飲食してもOKですが、甘い物は砂糖が多くむし歯が進行しやすくなります。また、かんきつ類などの酸っぱい物は歯のエナメル質を溶かしてしまいます(=脱灰:だっかい)。
妊娠中、酸っぱい物・甘い物は飲食してもかまいませんが、食べ過ぎず・飲み過ぎずに“ほどほど”にしてください。飲食後、つらい・だるい場合はとりあえずお口ゆすぎのみで済ませておき、少しでも身体の調子がマシになったら歯を磨きましょう。
妊娠中のケアのポイント④フロス・歯間ブラシを用いて歯間清掃を行いましょう
歯磨きは毎日のセルフケアの基本です。基本ですが、歯磨きのみでは歯についた歯垢や食べカスは最大でも60%程度しか落とせません。歯磨きに加え、フロス・歯間ブラシによる歯間清掃を行うことで+10~20%程度、歯垢や食べカスを落としやすくなります(残りの20%は歯科医院で受ける歯のクリーニングで除去します)。
妊娠中、および、妊娠中以外のときにも、歯磨きに加え、フロス・歯間ブラシによる歯間清掃を忘れずに行いましょう。
【妊娠中はセルフケアを行うと共に、歯科医院で定期検診を受けましょう】
つわりや気分の落ち込みなど、妊娠中は満足に歯みがきや歯間清掃(セルフケア)ができないことが多いです。
セルフケアが不足しがちな妊娠中ですが、妊娠中は歯科医院で定期検診(お口の状態チェック+歯のクリーニング)を受けることでお口の中を清潔に保ちやすくなり、むし歯・歯周病の予防につながります。
妊娠中、つらいときはお口ゆすぎだけでもかまいません(調子がマシなときは歯みがきをしてください)。ご自身ができる範囲で毎日のセルフケアを行うと共に、妊娠中は歯科医院で定期検診を受けましょう。